IGLOO DIARY

源にふれろ#5

10/5/03....板張りの大広間でイベントの打ち合わせをするために集まった。主宰は須藤さんで、スタッフや出演者はほとんど僕の知らない人ばかりだった。知り合いはさやさんだけだったが、さやさんは須藤さんのバックでギターを弾くことになっていたので、僕とはイベントの中では接点が無い。打ち合わせは関係者ひとりひとりと須藤さんが個別に面談する形で行われるらしく、僕はさやさんと大広間を好き勝手にうろうろしながら、自分の名前が呼ばれるのを待っている。広間は柔道の道場のような作りになっていて、天井は高く、3mぐらいの高さのところに大きな窓が一列にはめこんであるが、どの窓もニコチンで汚れたように黄色く濁った色をしている。さやさんは窓を指して、あの窓の感じは「ミツバチのささやき」を思い出す、というような事を言う。さやさんはその大広間を使って「たかしとイベントをやりたい」と言い、今からその事で頭が一杯らしく、壁を触ってみたり床の強度を調べるために(?)床を踏み鳴らしたりする。さやさんが床をドンドン鳴らしながら笑顔で僕を見て「しぶやさんも、ドンドンやったら楽しいですよ」と言うので、僕も一緒になって床を踏み鳴らす。二人でドンドンやっていると、さやさんの携帯に電話が入るが、その携帯の画面が広間の一画に設置された巨大スクリーンに大写しされる。見ると、画面にはスーパーのポップみたいな赤いロゴで「50万円はもらえないそうです」と書かれている。心配になってさやさんを見ると、拗ねたように床を見つめながら、誰に言うでもなく「ぼく、別にお金が欲しいんじゃないよ」と呟く。

10/6/03....自転車で見知らぬ少年と共に並んで走っている。自分も少年になっている。13才ぐらい。どういうきっかけか意気投合し、これから彼の家に遊びに行くことになっている。僕は「パンクが好きだ」と彼に話し、彼は感心したが、僕は実はそれほどパンクに詳しくはない、ということを隠している後ろめたさがある。彼の家はベージュ色の壁、えんじ色の屋根の平家で、母親と弟の3人暮らしだった。家に上がると、ちょうど夕飯らしく、彼の痩せた母親が紙の皿に干菓子のようなパステルカラーの食物を載せて卓に並べる。ひとつ口に含んでみると、しょっぱいような甘いような、味の濃い煎餅みたいな味がする。丸坊主の弟が二段ベッドから降りてきて、彼が僕に紹介する。今度、彼と弟でバンドを結成したのだという。練習のテープを聴かせてもらうと、ベースとギターだけで激しいスピードパンクを演奏している。80年代中盤のパンクバンドのレコードを聴いているような感じを受ける。彼等はまだほんの子供なのに、アドレッセンスのような存在感を持ってしまった。僕は叩けもしないのに「ドラムで入れて欲しい」と口走る。すると、それまで黙っていた弟の口が象のようににゅーっと伸びて、僕の首に巻き付いて締め上げてきた。僕の耳の穴に弟の口の尖端が入ってこようとするのを懸命に平手で牽制する。弟は先の尖った口で「お前なんか死んでしまえ」と言う。

10/12/03....灰色の大きな猫を飼っているが、人語を解するようになってしまったので、ナツは気味悪がって「捨てよう」と言う。猫が木の棚の上に座っていたので近づくと、猫は僕の方をまっすぐに見据えて、何事か言う。人間の言葉を真似ているらしいが、発声が曖昧なので、鳴き声と言葉の中間みたいな、妙に尾をひく気持悪さがある。「ほら。それをやるから捨てるなんて言われるんだ」と言ったら、猫は棚の上でクルンと転がって頭をさかさにした。その仕種があまりにも可愛いので、撫でてやると「ゴロゴロ」と猫らしく喉を鳴らした。猫は暖かく、毛は柔らかかった。

10/13/03....真夜中に、大勢で巨大な布団(20畳ぐらい)を共有して寝ている。一緒に寝ている人の大半は見知らぬ人だが、もぞもぞと布団の中を動いて移動したりする人の中に、時々ナツとか森君などを発見する。しかし話をするでもなくナツや森君は布団の中を去って行き、「他にも布団の中に知り合いが居るな」という感じだけがある。一人で布団の外に出てみると、真っ暗でシンと静まり返った和室はとても寒い。長沼の真冬を思い出す寒さだ。我慢して隣の部屋へ行ってみると、そこには一人分の布団が敷いてある。誰も寝ていないように見えたので、めくって見ると、セーラー服を着た血まみれの少女の死体がある。僕は部屋の電気をつけようと思いスイッチを探すが、何処にもない。

10/17/03....魚の鱗を削ぎ落とすと、小さいCDが沢山挟まっている。武田さんがそれ専用のプレイヤーを持っているという。武田さんの家には書生みたいな少年が大勢住んでいて、皆で和服姿で魚の鱗を削ぎ落としている。僕が「早く聴きましょうよ」と言うと、武田さんは裸の腹を撫でさすりながら「関さんを呼んだからもうちょっと待って下さい」と言った。少年の中の一人に促され、裏庭へ行くと、大きな汚い土管が横倒しになっていて、その中に入っていれば誰にも咎められず魚のCDを聴くことができるという。多少の後ろめたさを感じつつ土管の中に入ると、中は意外に広く、戦前のクラブを思わせる照明やソファまである。少年によると、魚のCDの音楽のエレガントな効果によって、どんな場所でもこのように変化するのだという。今や、土管の中は全くのクラブである。プレイヤーの調子が悪いらしく、古いマンボのようなエキゾチックな音楽が途切れ途切れに流れている。土管の外では関さんが到着したらしく、大勢の人が武田さんの家の前にある小高い丘に整列して迎える準備をしている。僕はその様子を、土管の中に居ながらにしてありありと見る。そして「いつまでもここに居たら仲間外れにされてしまう」と思った。

11/9/03....バスの車内に花を植えていたという人が逮捕され、Iさんが抗議デモをするというので、呆れて「なんでそんなことするんですか」とストレートに言ったら、急に泣き出して「私はもう一度演奏できると思って来たのに」と言うので、思わず「そんなこと出来るわけないじゃないですか」と言い返してしまう。言いながら(これは夢だから何をやっても平気だ)と考え、背後の石の階段に向かって倒れる真似をしたら、本当に凄いスピードで落下してしまい、もう駄目だと思ったら、すんなりと両足で地面に降り立ったので、おかしいなと思い振り返ると、Iさんが今度は笑って立っていたので、(ああ、助けてくれたんだな)と思った。/風格のある家を手に入れて、僕もナツもすっかり満足している。台所の蛇口が全て金色に塗られているのは、前の住人が自分でやったらしいと知り、「ふーん」という感じで見ていると、ナツが「コウ!コウ!」と叫ぶので驚いて外に出てみたら、外壁にペンキを塗っている見知らぬ女(50才ぐらい)が居て面喰らう。どうやら前の住人のようだし、まだ自分の家だと思い込んでいるようなので、ナツは激怒しているが、(ここでトラブルになると面倒だな)と思い、踵を返して家の中に戻る。しかし家の中はその間に空き巣にやられており、ブラウン管を叩き割られたテレビが転がっている。ナツはたんすから見たことのない洋服を引っぱり出して「警察に行く」と言って一瞬で着替えた。

11/13/03....床板が剥がれて人間の頭が出ている。その人間は土に覆われていて、近寄ると汚物の臭いがする。大野さんは「これで生きてるんですか?」と言って興味を示し、僕が制止するのも聞かずに土人間に触れ、大野さんは昏倒してしまった。

12/18/03....細く切った竹を組み合わせて作られた階段を登っていくと、従業員が外国人ばかりの軽食屋がある。父が経営しているという噂を聞いて訊ねたが、屋号が「熱心」という日本語なので、ますます確信を深める。兄が先に来ていて、テーブルで深刻そうに何かのノートを読んでいる。兄の顔は緑色で、目玉も赤だったりするような気がして、恐ろしくてまともに見られない。カウンターでこちらを伺っている数名の外国人を気にする振りをして兄に背を向け、「何を読んでんの」と訊くと、兄は泣き声で「映画の台本」と云った。

12/21/03....武田さんの歌入れがなかなか終わらない。ブースで歌っている武田さんを苦々しく眺めながら、卓の所で煙草を吸う。なぜそんな事になったのか、一度歌を録音してから、そのあと歌に合わせてピアノを被せろ、というのだ。武田さんは「朝ですよ~」と歌う。「開店は12時、今は11時半ですよ~」と歌う。

12/22/03....ナツが、浴室の蛇口から血が流れていると言うので、こわごわ見に行く。冷たい真っ暗な浴室に足を踏み入れると、ただでさえ暗いのにどんどん暗くなっていって、やがて漆黒の闇となってしまった。

12/28/03....マヘルのライブがあるというので一人で会場へ行くと、礼子さんしか居ない。スタッフも誰も居ない、道場みたいな畳のスペースでやるらしい。礼子さんに「『アザゼル』知ってますよね。あれやりますから」と急に言われ困惑する。

1/15/04....床の際のところに手をやると強力な吸引力によって奈落の底に落ちてしまうというので、その場に居る者は皆、戦々兢々として部屋の真ん中に固まっている。ナツが床板を外して穴を掘り始める。ナツはすぐにスコップで深い穴を掘ったので、既に床下に潜ってしまい姿は見えない。関さんがそれを手伝っているのを横目で見ながら、僕はカシオトーンのようなものを弾いて曲を作っている。僕がある程度コードで土台を作ると、大野さんがつまらなさそうに適当に歌うので少しずつ出来ていく。やっと形になってきたと思った時、関さんが来て「ちょっとは手伝って下さいよ」と言われた。

1/31/04....ナナオさんが仙台に来ていて僕に会いたがっていると久美子さんが言うので半信半疑で片平について行ってみると、片平のマンションは知らぬ間に取り壊されており、赤ちょうちんなどが軒を並べる鄙びた歓楽街と化している。久美子さんが僕の所に来る少しの間に工事が行われたらしく、ナツと久美子さんは「ひどおい」と憤慨している。そもそも健一さんとめぐるちゃんが何処へ行ってしまったのか分からないので、3人で暗い気分で歓楽街をうろうろしていると、おでんなどを出す屋台があって、人が大勢集まっている。そのなかに理恵ちゃんの姿が見えたので、僕は「ここでナナオさんが朗読をするんだな」と見当をつけ、人の群れの中に入っていく(ナツと久美子さんとはそこではぐれてしまったらしい)。外から見ると本当にみすぼらしい屋台なのだが、中に入ってみると、開店したばかりのライブハウスのように小綺麗で機材も揃っている。ステージの脇に丸テーブルがあって、そこで中年の男性が何か熱心に書きものをしている。見た瞬間に鮎川信夫だと分かり、いつの間にか僕も、これから行われる鮎川信夫の講演会のスタッフとして動き回っている。理恵ちゃんと行動できたら心強いのだが、などと思って理恵ちゃんを探すが見当たらない。鮎川さんは「猿のことば」という本を出版したばかりで、講演はその本にまつわる話らしい。僕は何とかして鮎川さん本人に話し掛けたいと思案しているが、どうしても近づくことができない。極彩色に塗られた大きな木の板を等間隔で立てるのを手伝ったりしている。そこはもはや鮎川さんの居たライブハウスではなく、何処かの学校の体育館である。

4/1/04....昭和初期に閉店してからそのままになっているデパートを、犯罪者ばかりが不法占拠して暮らしている。デパートと言っても広さはごく普通の住宅と変わらず、僕などは居場所が無いので壊れたエレベーターの中に私物を置いている。エレベーターは4畳半ぐらいの広さがあり、ドアは鉄柵なので檻のようにも見える。同居している者のなかに僕を悪く思う者が居るらしいことは薄々知っていたが、大事にしていた写真のファイルが盗まれたのをきっかけに、デパートを出ていくことにした。しかし出口が正確に分かっていないので、床板をはがした穴を通って階下の和室に出るなど、適当な事をしてしまう。ところが階下は照明も明るく、よく整備されていて、エスパルの地下街のような感じがする。この階なら陰惨な上の階とは分断されていて交流も無いので、生まれ変わったような気持で楽しくやっていけるかもしれない、と思った。カレー屋があったので入ってみると、さやさんがバイトをしていたので驚き、「さやさん」と言って駆け寄ろうとしたが、さやさんは両手で大きな×印を作って僕を制し、「ここはまずいですよ!」と真剣な表情で教えてくれた。

5/26/04....ささくれ立った畳に正座している。六畳ほどの空間の四隅に鉄の棒が斜めに刺さっていて、今にもこちらへ倒れて来そうだ。恐れて逃げ出そうと思うが、関さんから「我慢していれば最後にピラミッドになる。びびると駄目」と聞いているので、どうにか持ちこたえている。階下では何かライブの準備をしているらしく、ナツ、山路さん、工藤さん、植野さんらの話し声や笑い声、ギターのチューニングの音などが聞こえる。

7/30/04....アスファルトの道路の上を寝たまま高速で移動している。身を委ねていると不意に体がねじれてしまい恐ろしいので、必死に踏ん張って体勢を保とうとしている。でも近未来の世界だから、多少ねじれても安全に目的地に着くようにはなっている筈、という確信はある。

8/4/04....芸者がいくつもの小部屋(二畳ぐらい)に居て、次々に襖を開けて訪問する。芸者は明治時代の手着色の絵葉書みたいな顔をしている。ある芸者に「位の高い人に紹介してあげる」と言われ、黴臭く長い板張りの廊下を一緒に歩いて行くと、皮張りの扉があって、ノブを引いてみると重い。その向こうの部屋は存外にみすぼらしく、古い油と埃の臭いのする屋根裏部屋のような感じだ。芸者は気付くと消えてしまったが、よく考えると彼女がナツの祖先だったことを僕は知っているので、もう少しちゃんと話したりすれば良かった、と思った。みすぼらしい部屋には不釣り合いなビデオの編集機材や卓、テレビモニター、スピーカーなどが並んでいて、テレビ局を思わせる。

10/11/04....割烹着を着た山路さんがサラダを焼いてダンゴにしたものを串に刺して売り出し、月に12万ぐらいの収入を得ている。僕はなかなかのアイディアだと感心し、何処かちゃんとした所に店鋪を出すよう勧めるが、その途端に山路さんは怒り出して「なんでもそうやってカネカネ言うのは悪い癖ですよ」と言った。

10/21/04....大学のような建物でイベントがあり、大勢の人々の中に混ざって居る。朝倉さんの友達だというスーツ姿の女の人達が数名、食堂のテーブルを陣取っていて、yumboの事を話している。ナツは「あの人達は気味が悪い」と言って怒り、「アンゴラっていうバンドらしいよ」などと言うが意味が分からない。食堂のバイキングで食物をどんどん皿に盛っていく。筍の水煮、白身魚のフライ、珍しい木の実で作ったソースのパスタ、豚の角煮など。夢中になり過ぎてナツとはぐれる。「さっきの人達の所へ行ってみよう」と思い戻ってみたら、誰も居ない。大量の食べ物をテーブルに乗せる。

11/27/04....道路の深い亀裂に矢野君が落ちてしまった。工藤さんが腕を亀裂に入れて助けようとしているが、なかなかうまくいかない。皆で心配して亀裂のなかを覗き込んでみると、真っ暗で何も見えない。大谷さんは「何か長いもの長いもの」などと言って走り回っている。やがて川手さんが怒り出して「こんなことしていたら澁谷さんが遅れてしまうから、取り敢えず駅まで送りますよ」と言われ、二人で駅に向かって歩いた。

12/10/04....中学の技術科室の木の作業台に白い鳥が6羽ぐらい並んでいるのでよく見たら、鳥は紙粘土のようなもので出来ており、身体が針金で横一列に繋がっていた。触れると暖かいので不思議だなと思っていたら、竹田が来て「中にぬるま湯を入れるんだよ」と言う。何故かは分からないが無性に腹が立ってきて、作業台の上にあったスパナで竹田を殴り殺してしまった。外に逃げ出すと、ローマの遺跡のような石柱が立ち並ぶ一角に出る。石柱のうちの何本かはエレベーターになっていることを知っているので、全身汗びっしょりになって石柱に触って歩き回る。電話のベルのような音が聴こえたので、エレベーターのうちのどれかのインターホンが鳴っているに違いないと考える。

12/22/04....ステージの上で植野さんがサウンドチェックをしている様子を遠くから見ている。その様子は現実感が無く、植野さんがテレビ画面の中でギターを弾いているようにも見えるが、そう見えはじめるとまた急に生々しさが戻ってきて、また油断しているとビデオ画像っぽい質感に...というのを何度も繰り返す。僕がそういう状態になっているのに気付いた植野さんが、「澁谷さん、そういう時は自分もステージに上がればいいんですよ」と、屈託のない笑顔で言う。そうか、と背中を押された気分で立ち上がると、目の前が突然、のっぺらぼうの木の板になってしまった。「えっ?!」と思って板を押したり叩いたりすると、向こうから植野さんの「いや、それだと余計ダメですよ...」という声が聴こえてきて焦る。「別にこんなの何でもない。何でもない」と自分に言い聞かせてからそっと板を押すと、ギターを開放で鳴らしたようなジャーンという音が鳴って、板が視界からずり落ちていった。見ると、足元の板の立っていた線から先は何も無い空間になっており、床が途切れて直角になっている。血も凍る思いで見下ろすと、数十メートルはあろうかという高さであることが分かる。眼下は、全体に暗緑色なのでよく判別できないが、病院とか役所のロビーを思わせる冷たさと固さが感じられるので、屋内であるらしい。後ろを振り向こうと思うが、そうするとバランスを崩して前に倒れ込みそうになるので身体が固まって微動だにできない。そして背後も絶壁になっているように思えるぐらい背中が寒い。ひらひらと、黒い鳥がゆっくり近づいてくるのが見えて、「ああ、あれがぶつかってきたら立っていられなくなるな」と思ううちに、全身を抱きすくめられるような感覚があり、金縛りになった。/ステージ脇のドアの手前には四畳半ぐらいの空間があったので、工藤さんがスタッフに「ここで練習しててもいいですか」と言う。全員が、荷物を持ってあちこち歩くのにくたびれ果てていたので、スタッフがいい顔をしていないにもかかわらず我々は強引にそのスペースに楽器を拡げて練習の準備を始めた。川手さんのギターの弦が全て真っ黒なので変だなと思い「それ何ですか」と訊くと、「ああこれ、弦がゴムで出来てるんですよ」と工藤さんが言う。面白い音が出そうなので、僕が弾きたいなと思っていたら、工藤さんは「これ僕が弾くから」と言って僕の目の前で弾き始めた。しかし、音は全くしない。ゴムの弦をつまびいている右手の指のあたりから血がピュピュッと飛び始めたので、何事かと思い恐怖で固まっていたら、工藤さんの指がささらのように次々に裂けて、傷口から凄い勢いで血が噴き出してしまう。恐ろしさのあまり、壁の陰の狭い通路へ避難する。背後から皆の絶叫や「救急車呼んで下さい」といった声が聞こえるが、構わずに通路をどんどん走って逃げる。建物のなかに、表通りに出られるエレベーターがあるのを知っている気がして、階段を適当に昇ったり急に広くなった廊下を全速力で走ったりする。

12/26/04....12畳ぐらいの和室の、2段になった押し入れの上段(襖は外されている)がカプセルホテルのような作りになっていて、そこに座って手慣れた感じでジュースの空き壜をタオルで拭く作業をしている。下段には哲雄さんが居り、部屋の畳の上には拭き終わった壜が箱詰めされて整然と並んでいる。僕はすっかり作業に飽きていて、「こんな時だからこそいい演奏が出来る筈だ。楽器さえあれば...」と思っている。なぜか物凄く自信がある。哲雄さんが「矢野さんから電話があって、曲があるなら歌うと言ってましたよ」と言う。矢野顕子の事を言っているのだ。矢野顕子が歌うと分かっていて曲を書くとそれっぽくなりそうなので難しい、と言うと、哲雄さんは「でも矢野さんはそのためにCDも作ったんですよ」と言うので何を言っているのかと思い下段を覗くと、哲雄さんは矢野顕子のCDの組み立て作業をしている。ジャケは全て違う。一枚手に取ると、作詞作曲のクレジットに「澁谷浩次」と書いてある。「もう録音したのか。ということは曲を作る必要もないな。自分がどんな曲を書いたのか聴いてみたいな!」と、はしゃぐ。


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